子どもがいない夫婦の老後はいくら必要?老後資金の貯め方を解説
人生100年時代といわれる今。子どもがいない夫婦とはいえ、老後資金の計画的な準備は欠かせません。できれば生活費を気にせず、ゆとりある老後の暮らしを楽しみたいものですよね。いったいいくらの貯金があれば、不自由なく老後を過ごすことができるのでしょうか。
今回は、子どもがいない夫婦の老後資金について、必要な貯蓄金額や老後資金の貯め方を詳しく解説していきます。老後資金に不安を抱えている方は、ぜひ参考にしてください。
子どものいない夫婦で必要な生活費は?
まずは子どものいない夫婦に必要な生活費はいくらぐらいになるのかをシミュレーションしてみましょう。
ここでは総務省が発表したデータを参考に、毎月発生する出費の平均を確認していきます。
夫婦2人の生活にかかる費用
費用項目 | 60歳以上世帯 | 65歳~74歳世帯 | 75歳以上世帯 |
---|---|---|---|
食費 | 71,809円 | 73,499円 | 65,503円 |
住居費 | 15,164円 | 16,587円 | 12,562円 |
光熱・水道費 | 21,848円 | 22,148円 | 20,970円 |
家具・家事用品費 | 10,618円 | 10,893円 | 9,472円 |
被服費 | 8,231円 | 8,412円 | 6,218円 |
医療費 | 14,739円 | 15,188円 | 14,753円 |
交通・通信費 | 32,524円 | 34,401円 | 20,727円 |
教育費 | 799円 | 556円 | 328円 |
教養娯楽費 | 25,885円 | 27,028円 | 21,244円 |
その他の支出 | 57,280円 | 58,175円 | 50,618円 |
支出合計 | 258,897円 | 266,886円 | 222,395円 |
参考:総務省「家計調査」世帯主の年齢階級別1世帯あたり1ヶ月間の支出(二人以上の世帯)2017年度データより
60歳以上の夫婦2人世帯において、1ヶ月あたりにかかる生活費の平均額はおよそ25万円となっています。
ここに含んでいる出費はあくまでも必要最低限の費用です。このほかに車を所有している人は車の維持費や、持ち家に住んでいる人は家のリフォーム費用が発生するなど、世帯ごとにさまざまな出費が考えられます。
リタイア時期で考える必要な貯蓄
続いて、リタイア時期別に必要となる貯蓄金額について、それぞれいくら必要となるのかをシミュレーションしてみましょう。今回は日本人の平均寿命「男性81.64歳」「女性87.74歳」の平均を算出し、84歳まで生存すると仮定して、シミュレーションをおこないます。
年齢別生活費の平均
まずは、上記に挙げた年齢別生活費の平均値から、夫婦2人の生活にかかる費用を算出していきます。
60~64歳
1年にかかる生活費:3,106,764円
60~64歳の5年間で必要な生活費:15,533,820円
65~74歳
1年にかかる生活費:3,202,632円
65~74歳の10年間で必要な生活費:32,026,320円
75~84歳
1年にかかる生活費:2,668,740円
75~84歳の10年間で必要な生活費:26,687,400円
また、60~84歳までの生活費平均を合わせると「74,247,540円」と、25年間でおよそ7,500万円近い支出が発生することになります。
見込まれる年金収入の平均
次に、年金収入の平均値を算出してみましょう。
日本の公的年金制度は、「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の2種類から成り立っています。
老齢基礎年金は満額で「年780,900円」が、老齢厚生年金は社会保険の加入年月と給与金額に応じて算出した年金額を、それぞれ65歳以降に受給できる仕組みです。
今回は、65歳以上の夫婦のみ世帯における社会保障給付の平均額「月219,976円」(※)を利用して必要な貯蓄額を算出していきます。
65歳~84歳までに受給できる年金額
1年あたりの年金受給額:219,976円×12ヶ月=2,639,712円
生涯受給できる年金総額:2,639,712円×20年=52,794,240円
老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせて年金が支給される場合、受給開始から20年でおよそ「5,200万円」の年金が受け取れます。
リタイア年齢別にみる必要な貯蓄額
こうして見ると年金だけで十分生活ができそうにも思えますが、実際はどうでしょうか。
以下、リタイア年齢別に必要な貯蓄額を算出して表にしたのでご覧ください。
リタイア年齢別にみる必要な貯蓄額
リタイア年齢 | 支出 | 年金収入 | 必要な貯蓄額 |
---|---|---|---|
60歳 | 74,247,540円 | 52,794,240円 | 21,453,300円 |
65歳 | 58,713,720円 | 52,794,240円 | 5,919,480円 |
70歳 | 42,700,560円 | 39,595,680円 | 3,104,880円 |
年金の受給は65歳以降となるので、60歳~65歳の5年間は年金収入がありません。
そのため60歳でリタイアする場合は、まず60歳~64歳の5年間を安心して暮らすために、最低でも「約1,560万円」の貯蓄を準備しておく必要があります。
さらに65歳以降、年金収入だけでは足りない部分を補うための貯蓄もしておきましょう。
70歳まで働く場合、65~74歳までの5年間は年金の支給が停止となる可能性があります。(給与収入額による)
そのため、ここでは支給停止になった場合を想定して、5年分の年金収入額を引いたうえで必要な貯蓄額を算出しました。
支給停止になるとそのぶんがもったいないと思われるかもしれませんが、年金の受給を70歳以降に繰り下げると、最大42%年金額が増額されるといったメリットもあります。
低金利時代の日本において、42%の利息がつく計算となるのは非常に魅力的ですね。
いっぽうで、万が一60歳以降65歳になるまでの間に生活費が足りなくなってしまった場合、繰り上げ受給も可能です。しかし繰り上げ受給を受けた月から1ヶ月あたり0.5%が、ずっと減額となるため注意しましょう。
年齢別の貯蓄シミュレーション
続いて、上記で算出した老後に必要な貯蓄額を貯めていくには、どれだけの金額を積み立てていけばよいのかを年齢別でシミュレーションしてみましょう。
30歳から貯蓄する場合
60歳でリタイアした場合 | 65歳でリタイアした場合 | 70歳でリタイアした場合 | |
---|---|---|---|
年間あたりの貯蓄額 | 715,110円 | 169,128円 | 77,622円 |
1ヶ月あたりの貯蓄額 | 59,593円 | 14,094円 | 6,469円 |
最終貯蓄額 | 21,453,300円 | 5,919,480円 | 3,104,880円 |
40歳から貯蓄する場合
60歳でリタイアした場合 | 65歳でリタイアした場合 | 70歳でリタイアした場合 | |
---|---|---|---|
年間あたりの貯蓄額 | 1,072,665 | 236,779円 | 103,496円 |
1ヶ月あたりの貯蓄額 | 89,389円 | 19,732円 | 8,425円 |
最終貯蓄額 | 21,453,300円 | 5,919,480円 | 3,104,880円 |
50歳から貯蓄する場合
60歳でリタイアした場合 | 65歳でリタイアした場合 | 70歳でリタイアした場合 | |
---|---|---|---|
年間あたりの貯蓄額 | 2,145,330円 | 394,632円 | 155,244円 |
1ヶ月あたりの貯蓄額 | 178,778円 | 32,886円 | 12,937円 |
最終貯蓄額 | 21,453,300円 | 5,919,480円 | 3,104,880円 |
60歳でのリタイアを考えている場合、必要な貯蓄額はかなり大きくなってくるのでできるだけ早いうちから準備しておくことをおすすめします。
ここで算出した金額は最低限老後の生活で必要となる費用の目安です。
生命保険文化センターの「生活保障に関する調査(令和元年度)」によると、ゆとりある老後の生活費の平均は「月36.1万円」となっています。
たとえば65歳でリタイアすると仮定した場合、平均寿命までの15年間でおよそ1,800万円の貯蓄をプラスすれば老後のゆとりある暮らしが実現できるでしょう。
夫婦で老後にやりたいことなどを話し合ってみて、そのために必要な費用を上乗せして試算をおこない、最低限必要となる生活費とあわせて準備しておくと良いですね。
子供のいない夫婦の老後資金の貯め方
老後資金をどれだけ貯蓄しておけばよいか、イメージがつかめたでしょうか。ここからは老後資金の貯蓄方法について、4つの制度を紹介いたします。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoは自分で設定した金額を毎月積み立てて運用していき、貯まった金額は60歳以降に年金受取または一括受取ができる仕組みの制度です。「掛金の所得控除」や「運用益非課税」など、税額控除面におけるメリットが多く、節税効果も期待できます。
掛金には限度額があり、国民年金の加入区分に応じて限度額が異なります。参考までに、第2号被保険者の拠出限度額は月23,000円(年間276,000円)です。
iDeCoの加入年齢は「20歳以上60歳未満」(※)となっており、60歳から老齢給付金を受取るには10年以上の加入が必要となります。仮に40歳から60歳まで、20年間加入した場合「552万円」を元手に運用されることになり、運用実績に応じて将来受け取れる年金額が変動します。
(※)2022年5月以降、iDeCoの加入可能年齢が65歳までに引き上げられます。(国民年金の被保険者のみ)
iDeCoのメリット
- 掛金は少額なので気軽に始めやすい
- 掛金は全額所得控除が受けられる
- 運用益が非課税で再投資される
- 一定額までは非課税で年金が受給できる
iDeCoのデメリット
- 運用状況によって受給額が変動する
- 一度契約すると原則60歳まで解約できない
つみたてNISA
つみたてNISAは少額投資が可能な投資信託制度です。毎年40万円を上限に投資信託を購入でき、投資によって得た利益に関しては20年間、非課税期間が続きます。20年間で最大800万円を非課税で投資できるため、普通に投資信託をするよりも利回りが良くなるともいえるでしょう。
20年経過後はつみたてNISAの口座は解約となるため、一般口座または特定口座で運用するか、売却して現金に換えるといった対処が必要です。iDeCoとは違い、売却はどのタイミングでもおこなえるため、運用実績を見ながら自分の好きなタイミングで現金化することもできます。
つみたてNISAのメリット
- 運用益は20年間非課税になる
- 少額から始められる(非課税枠は月33,333円まで)
- 投資初心者でも低リスクで運用可能
つみたてNISAのデメリット
- 少額なので短期間の投資には向いていない
- 低リスクだが、元本割れの可能性もある
- 選べる商品が限定されている
- 損益通算、繰越控除はできない
個人年金保険
個人年金保険は民間の保険商品のひとつです。払い込んだ保険料を積み立てていき、満期を迎えたときから年金形式で毎年同じ金額を一定期間受け取ることができます。
商品の種類にもよりますが基本的には保険商品なので、万が一契約者が死亡した場合には遺族に死亡保険金が支払われたり、年金が相続されたりするため、保障と積み立てを同時に準備できるといった特徴があります。
個人年金保険には「定額型」と「変動型」の2種類があり、変動型は運用実績に応じて将来受け取れる年金額が変動します。
いっぽう、定額型は元本が保証されるうえ、受け取れる年金額は払い込んだ保険料の総額よりも上回る商品が一般的です。ただし利率は、それほど期待できるものではありません。
複数の保険商品のなかから比較し、それぞれ商品の内容を把握したうえで自分に合った個人年金保険を選びましょう。
個人年金保険のメリット
- 個人年金保険料控除が受けられる
- 死亡保障も兼ね備えられる
- 定額型は低リスクで資産を増やせる
- 変動型は資産を大幅に増やせる可能性がある
個人年金保険のデメリット
- インフレに弱い
- 定額型は利率が低い
- 変動型は元本割れのリスクがある
- 途中解約は可能だが、元本割れとなる
財形年金貯蓄
財形年金貯蓄は「財形貯蓄制度」の一種で、老後の資金づくりを目的とした非課税の積立貯蓄制度です。企業がこの制度を導入している場合に限り、55歳未満の人であれば誰でも加入することができます。ただし役員は加入できません。
毎月の給料や年2回のボーナスから天引きされ自動的に積み立てができるため、とくに意識しなくても自然と貯めやすい方法だといえるでしょう。
財形年金貯蓄は60歳以降に年金が受給でき、5年以上20年以内の期間で好きな受取期間を設定できます。60歳から65歳までの公的年金が受け取れない5年間を年金受取期間にするといった利用方法も可能です。
また、「財形住宅貯蓄」と「財形年金貯蓄」の元利合計が550万円までは利子や配当金が非課税で受け取れる点もこの制度の特徴です。
財形年金貯蓄のメリット
- 貯金が苦手でも始めやすい
- 利息や配当金は非課税になる
- 定期預金や保険商品などの低リスクの商品を選べる
財形年金貯蓄のデメリット
- 利息自体がごくわずかのため非課税の恩恵は少ない
- 選べる金融商品は会社によって異なる
- 退職した場合、強制解約となり元本割れになる可能性が高い
まとめ
今回は、子どもがいない夫婦の老後資金について、必要な貯蓄金額や老後資金の貯め方を詳しく解説しました。
夫婦2人のみの世帯の場合、毎月約25万円の生活費が必要ですが、年金収入の平均は約21万円となるため、毎月およそ4万円が足りなくなる計算になります。
また、ここで算出した生活費の平均額は、最低限の生活に必要な費用なので、ゆとりのある暮らしを実現するためにはそれ以上に貯蓄をしておく必要があります。
老後資金の貯蓄方法にはさまざまな制度や保険商品などが挙げられます。
受け取れる公的年金の金額は加入状況などによって人それぞれ異なるため、正しく把握したうえで必要な老後資金を算出し、確実に貯蓄していきたい人はぜひファイナンシャルプランナーに相談してください。
自分に合った金融商品をうまく活用しながら、効率的に老後資金を準備していきましょう。